半導体関連企業の進出と地域経済~過去から学ぶTSMC進出への備え~

はじめに

 半導体関連企業の工場進出は、原材料の調達や加工、組立、輸送などのサプライチェーンを構成する関連企業の集積が不可欠であることから、地域の産業構造に大きなインパクトを及ぼす。また、雇用の新たな受け皿となることで、家族を含めた転入者の増加も見込まれる。人口増加は、住宅はもとより商業・サービス関連施設等生活関連産業の集積も誘発するとともに、間接雇用の創出にも寄与するという好循環がもたらされる。
 今般、経済安全保障上の国家プロジェクトとして、世界の半導体受託生産でシェアトップを誇るTSMC(台湾積体電路製造)の工場進出が菊陽町に決まり、2024年から出荷が開始されることとなった。投資額は総額で9,800億円、従業員数は1,700名程度が見込まれ、地域の社会面と経済面にこれまでに類を見ないほどの大きなインパクトとなることが予想される。この動きを受けて、県内の自治体や大学、高専等の教育機関、さらには住宅産業や小売、サービス業など官民を挙げた受入体制の整備に取組んでいる。
 そこで本稿では、過去を振り返り、半導体関連企業の県内への進出と地域の社会経済環境の変化(1980年頃~現在)について、合志市・大津町・菊陽町(以下、₃市町)を中心に分析を行い総括するとともに、TSMC進出に伴い今後予想される課題とその解決の方向性についての考察を行う。

目次

  1. これまでの半導体関連企業の進出の状況
  2. 地域の社会経済の変化
  3. TSMC進出に伴う現在の動き
  4. 過去から学ぶTSMC進出の備え
  5. まとめ

レポート一部

1.これまでの半導体関連企業の進出の状況

  • 半導体関連工場が必要とする広大な工場用地や、豊かな水資源等の立地条件に恵まれる熊本県。
  • 積極的な誘致により、3市町では半導体関連企業の進出が進んだ。

 半導体関連企業は、生産において広大な工場用地と豊富な水や多くの労働力を必要としている。これらの生産資源に加えて、製品や原材料等の輸送に有利な高速道路や幹線道路へのアクセスの良さも工場立地に必要とされる重要な要因となる。その優位性に加え積極的な誘致への取組みにより、熊本における半導体関連の主な進出企業としては、三菱電機(1967年、合志市)や九州日本電気(1969年、熊本市南区 現ルネサスセミコンダクタマニュファクチュアリング)やソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(2000年、菊陽町、以下「ソニーセミコン」)が上げられる。また、二輪車の製造を手掛ける本田技研工業熊本製作所(1976年、大津町)や「半導体を製造するための装置」を製造する東京エレクトロン九州(1990年、合志市)、ディスプレイの材料製造の富士フイルム九州(2005年、菊陽町)等の企業の進出にも繋がっている。(図表₁)。
 半導体産業への産業振興策として、熊本県は2003年₃月「熊本セミコンダクタ・フォレスト構想」を打ち出し、地域の産学官連携を基盤に、半導体生産技術を核とした国際競争力のある新技術・新産業が継続して創出される活力ある地域(熊本シリコン・クラスター)の創成を目指した。

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