逆境をイノベーションの源に ~経営の持続可能性を高める組織開発~
はじめに
熊本県内企業は、人口減少、少子高齢化、生産年齢人口減少等に伴う人手不足、企業内外の要因に
よる社員の離職者増加、物価高騰による仕入れコストの増加等と多重苦に直面している。本レポート
では、多重苦を「逆境」と定義する。逆境に対して、生産性向上、組織活性化、技術革新等が急務と
なっている。これまでも経営資源である人を「資本」として、イノベーション創出の土台となる、組
織の活性化に関する取組み事例を考察してきたが、本レポートでは、逆境に対する企業の歴史的な取
組みの変遷を振り返るとともに当研究所の組織開発における実証事例を紹介する。
目次
はじめに
1.環境変化に対するこれまでの企業の取組み
2.熊本県内企業が抱える課題
3.当研究所の人的資本経営支援事例
おわりに
レポート一部
1.環境変化に対するこれまでの企業の取組み
(1)経営戦略の変遷
1900年代、産業革命に伴う生産性向上の必要性と、労働者の満足度向上の関心から、経営戦略論には 2 つの主義が生まれた。一つ目の大テイラー主義は、効率的な生産と分業を重視した科学的管理のアプローチであり、もう一つの大メイヨー主義は、社員の心理的要因や人間関係の重要性を強調した人間関係論に基づくアプローチである(図表 1 )。
1960年代、市場競争は激化し、企業は戦略的な立ち位置を明確にする必要性が生じ、ポジショニング学派とケイパビリティ学派の異なる企業戦略が出てきた。ポジショニング学派は、マイケル・ポーターの理論に基づき、市場での競争優位を確立するために特定の市場セグメントでのポジションを重視する①コストリーダーシップ、②差別化、③集中戦略の 3 つの戦略を提唱した。企業は明確なポジションニングをとることで競争相手との差別化を図り、顧客からの信頼を得るという考え方である。
一方、ケイパビリティ学派は、企業内のリソースや能力に焦点を当て、持続的な競争優位は企業が持つ独自の能力に由来する考え方である。ケイパビリティ学派は①技術力や②人的資源、③組織文化が重視され、自社の強みを生かして独自の価値を提供するため、競争において柔軟な戦略を展開する。
2000年代、企業はIT化が進み、経済・経営環境の変化、技術革新の速度は劇的に上がり、「ポジショニング」も「ケイパビリティ」も、自社の戦略が、環境変化に追い付かない時代となった。そこで、まず試行錯誤・行動してから、自社にとって良いか悪いか決める「アダプティブ戦略」が登場した。そして、2020年代以降はコロナ禍を経て、企業はこれまでにない環境変化による逆境に対して様々な対応をしている。
